関東明陵同窓会

　先日久々に浅草HUB（ハブ）に出演しました。かつて自分のバンドで八年間毎月出演していたお店です（八年という数字だけはくっきり覚えている）。とにかく随分と久しぶりなのだけれど、最後に出たのがいつ頃だったけ？とぼんやりしたままお店に向かったのですが、近くの路地を横切るときに強烈な違和感を覚えました。下町の空が広がっていたはずの空間を巨大な東京スカイツリーが占めているではありませんか。そう、僕がHUBに来ていたのは少なくともスカイツリー以前だったのです。スカイツリーの完成は2012年です。

　お店の方は外装が少しだけ垢抜けた感じに塗り直されている以外は、客席もステージもバックステージも昔のままでした。リハーサルが始まる前にスマホを充電させてもらおうとコンセントを探したときに、またもや「おや？」と妙な感覚に見舞われました。コンセントはどこだ？…つまり、僕は、これまで、ここでスマホを充電した記憶がないのです。iPhoneの発売は2007年、僕がレギュラー出演していたのはそれよりも前だったことになります（昔の手帳を引っ張り出してみると最後の出演は2006年の１月でした）。

　HUBの壁には歴代の出演バンドの写真が飾られています。それぞれのユニフォームに身を包み笑顔でポーズを決めているデキシーバンドの写真に囲まれて、仏頂面でクラリネットを抱えている僕の写真がまだ残っていました。当時の僕は、クラリネットというだけで判をついたようにトラディショナル扱いされてしまうことに抵抗があって、エンタメ趣向のデキシーバンドと同列に語られることが嫌だったのです。まったく子供じみていて各方面に対して失礼極まりない大勘違い野郎です。まあ、演奏も未熟なうえにそんな性根で演奏していたものですから、浅草ではしょっちゅうお客さんからお叱りを受けていました。

　演奏者の心は音に出ます。どんな状況にあっても、演奏させてもらえることと、聴きに来てくださる人々に感謝の気持ちを持ち、何よりいかなる瞬間も音楽に対してピュアでなければ、仮にどんなに技術があったとしてもダメなんだよなと、経験を積むほど痛いほどわかってきました。お店の空気にそぐわない一枚の写真ですが、そのまま飾っておいてもらえればと思いました。たまには立ち寄って自らを戒める場とします。

　

 

6月27日　谷口英治